読書健忘録

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読書健忘録2023.7:自己愛性パーソナリティ障害(NPD)について

M.-L. フォン・フランツ(著)松代洋一 椎名恵子(訳)「永遠の少年『星の王子さま』の深層」紀伊國屋書店 1982

”永遠の少年の元型に同一化した人は、ふつうよりも長く思春期の心理にとどまっているということである。~極端な母親コンプレックスに見られる典型的な障害は、ユングが指摘したように、ホモ・セクシュアリティとドン・ファン的性格の二つである。~男性に何でも与えることができ、不足や欠陥を知らない完全なる女性としての母親のイメージが、あらゆる女性のうちに探し求められる。ドン・ファン的男性は神なる母を求めて女性に魅せられるが、やがてはその女性がふつうの人間にすぎないことを知るしかなく、彼女と性生活を共にすればはじめの魅惑はすべて消え去り、幻滅のうちに背を向けては、また次から次へと新たな女性に自分の理想のイメージを投影しつづけるのである。彼はこうして、自分をその腕のなかに迎え入れ、どんな要求をも満たしてくれるような母なる女性を求めて永遠にさまよう。思春期特有のロマンチックな心情を伴うこともまれではない”(p.8)

”自分はどこか特別なのだから社会に適応する必要はない、隠れた才能の持ち主には適応などありえないというわけである。加えて、他人に対する横柄な態度もみられるがこれは劣等感とまちがった優越感からきている。この種の男性はまた、自分に合った職業を見つけるのが非常に難しい。どんな職についても、決して適ったりの職とは思えない。~女性についても同様で、彼にふさわしい女性など決して現れない。ガール・フレンドとしてならいい、しかし・・・なのだ。いつでもこの「しかし」が割り込んで、結婚も、どんな積極的な関係も不可能にしてしまう。~自分はまだ本来の人生を生きていないという奇妙な態度や感情である。さしあたって、これこれのことをしているが、しかしそれが女性であろうと職業であろうと、まだ本当に望ましいものではないというわけで、あるのはあただ、未来のいつか本当のものがやってくるという空想ばかりなのである”(p.8-9)

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)をわかりやすく説明している文章である。いつでも現状に満足できない。今の処遇に納得がいかない。もっと上に行けるはずの人間なんだと空想する。家庭を顧みず浮気を繰り返し妻には従順を求めるモラハラタイプの夫だったり、会社や社員の利益よりも自身の利益を最優先にするワンマンの経営者などがこれに当てはまるといえるのではないか。誇大妄想に取りつかれ、周りが合わせるべきだ、地球は自分中心に回っている、ピーターパン症候群である。

“永遠の少年は、悪い意味で、あまりにも感じやすく、弱々しく、交際の上でも「いい子」でありすぎることが多い。そして、必要な時にすばやく自分を守るということができない。たとえば彼は、周囲の女性たちのアニムスにたよりきっている。もし彼女らの一人が泣きわめいたり、彼のあら探しをしたりすると、初めはびっくりして一生懸命になだめようとするが、ある日突然、残酷この上ないそぶりで二人の関係そのものからさっさと立ち去ってしまう。意識の面では優しくて思いやりがあるのに、無意識の影の面では非常に残忍で冷淡で誠実さに欠けるのだ。~彼らには過渡の段階などないのだ。柔和で従順な「好青年」が、人間の感情などひとかけらもない。冷酷無慈悲な影にあっという間にすり代わるのである”(p.81-82)

自己愛性パーソナリティ障害(NPD)の被害者が声を揃えて言うのは、「今まで会ったことがないほど魅力的で優しくて素敵なひとだったのに」という。だから皆、突然拒絶されて衝撃を受けてしまう。「あんなに素敵な人だったのにまさか。僕が、私のせいではないか?」そういった自責感に打ちのめされるのである。

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